日常の食卓を揺さぶる「直火の器」——陶芸家・十場あすかが魅せる土と生活のリアル【2026年最新ルポ】
十場 あすかの作品を初めて手にしたとき、誰もがその「質感」の重みに息をのむ。単なる日常の道具を超え、料理を包み込む土のぬくもりと荒々しいまでの表情が、食卓の空気を一瞬で変えてしまうからだ。現代のスピード感あふれる暮らしのなかで、彼女が生み出す耐熱の器や味わい深い陶器は、いまや国内外の器ファンや料理家たちから熱狂的な支持を集めている。
兵庫県丹波篠山の豊かな自然に囲まれた工房で、陶芸家としての歩みを止めることなく作品をつくり続ける十場 あすか氏。夫であり同じく陶芸家である十場天伸氏とともに古民家を拠点としながら、子育てと創作活動を慈しむように重ねるそのライフスタイル自体が、作風に深い余白と温もりを与えている。
なぜ「直火で使える土鍋・耐熱器」がこれほど人を惹きつけるのか

彼女の代名詞とも言えるのが、オーブンや直火でそのまま調理し、アツアツのままテーブルに運べる耐熱の器だ。
コンロの上でコトコトと音を立てるスープ、香ばしい焦げ目がつくグラタン、ふっくらと炊き上がる米。調理道具でありながら、そのまま洗練された食器としても機能する。この「そのまま出せる」という実用性が、忙しい日々を送る現代人の心を掴んで離さない。火にかけることで土が育ち、使い込むほどに味わいを増していく過程も、愛着を深める大きな理由だ。
丹波篠山の風土と、夫婦で歩むモノづくりの日常
工房が佇むのは、日本六古窯の一つとしても知られる歴史深い丹波の地。四季折々の景色が広がる静寂のなかで、土を練り、形を整え、窯に火を入れる日常が繰り広げられている。
夫の天伸氏もまた、伝統手法を用いた力強い作品で知られる陶芸家だ。互いの領域を尊重しつつ、同じ工房でそれぞれの手仕事に向き合う二人。生活と創作が切り離せない環境だからこそ、飾らない素朴さと日常に寄り添う柔らかさが、作品の隅々にまで滲み出ている。
「個展は即完売」熱狂を呼ぶ作品の魅力と現代の需要

各地のギャラリーで開催される個展は、会期初日から長い列ができ、主要な作品が瞬く間に売れていく。近年では事前抽選制や整理券配布が常態化するほどの過熱ぶりだ。
2026年現在、モノがあふれる時代にあって「大量生産品にはない一点ものの手触り」を求める人々は増え続けている。食卓を豊かに彩る器は、単なる生活雑貨ではなく、日々の暮らしにささやかな豊かさをもたらす贅沢なアート体験として捉えられているのだ。
素朴さと洗練の共存——独自のスリップウェアと表情豊かな釉薬
伝統的なスリップウェア(化粧土で模様を描く技法)の要素を取り入れつつも、彼女の作品にはどこかモダンで無骨な美しさが宿る。
黒や白、グレーといった落ち着いた色調の釉薬、ざらりとした土の粒子が残る肌触り、焼き上がりごとに異なる歪みや焦げ感。一つとして同じものが存在しない不均一さこそが、料理を引き立てる最高のキャンバスとなる。
世界へ広がるファン層と「JAPANESE POTTERY」の新潮流
その評価は国内にとどまらない。台湾や香港、さらには欧米のライフスタイルショップやコレクターからも熱い視線が注がれている。
日本の民藝精神を感じさせながらも、現代の多様な食文化(洋食、アジアン、ヴィーガン料理など)に不思議となじむ汎用性の高さが、国境を越えた共感を呼んでいるのだ。クラフトマンシップへのリスペクトが高まる世界情勢も、彼女の作品への熱狂を後押ししている。
手仕事の器が教えてくれる、丁寧な暮らしの現在地
使い込むほどに油が馴染み、色合いが深まり、自分だけの表情へと育っていく。彼女の器は、完成品を買って終わりではない。
毎日の料理を盛り付け、火にかけ、洗って乾かす。その一連の営みを通じて、使う人自身が器の物語を完成させていく。忙しない現代を生きる私たちに、「食べる」という根本的な営みの歓びを思い出させてくれる存在だ。 (出典: 十 場 あすか(Yahoo!ニュース))